須崎(すさき)から乗ってきた特急南風(なんぷう)を宿毛(すくも)で降り、歩いてフェリーターミナルに来て佐伯(さいき)行きの船に乗った。
階段を上がってなんとか二等船室にやってきた。お客は5人くらいしかいなかった。
こんな航路だから鉄道を使って徒歩で乗る客はぼくぐらいで、あとの客はみんな車だろう。
フェリーは場所によって大きく客の数が異なり、4月に乗った大阪〜甲浦などはがらがらで、7月に乗った松山〜小倉は大混雑であった。このフェリーはがらがらなのである。
とりあえず横になる。なにしろきのうは横浜から岡崎までムーンライトながらに乗り、ほとんど眠っていないのである。だから船室ではすぐに眠ってしまい、出航さえ気が付かなかった。
そしていつのまにか下船案内が聞こえてきた。ねぼけまなこでぼくは船をおりた。時刻表では始発の延岡(のべおか)行きまではけっこう時間があるので、港から佐伯駅までどのくらい距離があるかわからないが、なんとか歩いていこうと思った。
宿毛(すくも)港から乗ってきた夜行フェリーを佐伯(さいき)港で降りるともう午前4時である。
港から歩いて進む人は当然ぼくだけだ。
港の近くに港周辺の案内図があった。いかにも市街地というように道が連なっている地帯と、港が書いてあったが、佐伯駅は図の中にはない。こりゃすごく遠くにあるに違いないと思って歩き始めた。
歩いているうちに、右の方にひときわ明るい光がさしこんで来るのが見えた。もしかしたら佐伯駅をさがす手がかりになるかもしれないと思い、近づいてみた。
あれ、佐伯駅だ。
港からこんなに近いにもかかわらず、港近くの案内図にまで無視されるくらい、駅を使う人と港を使う人は分離されていたのである。
とにかく駅舎に入る。こんな時刻でも始発電車を待つ客が若干いる。ただしフェリーの客ではなさそうだ。
また駅の外に出て、とっぷりと改札があくのを待った。
5時が過ぎ、だんだん明るくなってきた。ようやく駅員が来て、自動券売機も使えるようになった。
今日は鉄道の日記念きっぷを使わず、普通の乗車券で旅行する予定だったので、延岡まできっぷを買い、改札に入り、電車を待った。
しばらくホームで待つと電車がやってきた。しかしどこ行きかわからない。
そのうち同じホームにもう1台電車がやってきて、今までいた電車と間隔をあけて停車した。
まるで小浜線と舞鶴線の乗り換え駅、東舞鶴のようである。東舞鶴でもこうやって同じホームにディーゼル車が間隔をあけて停車し、お客が乗り換えたりしたものだった。
もちろん宮崎寄りの電車が延岡行きに違いないので乗った。そしてがらがらの始発電車は発車した。
ほとんどお客のいないまま、電車は市街地を離れ、山の中に入っていった。
宗太郎(そうたろう)という名前の駅に着いた。なんのことはない、山にある普通の駅である。
宗太郎を過ぎてさらに進んでいく。
山を下りているようで、だんだん平野が近づいてきた。そして市街地が再び見えてきた。
そして電車は終着、延岡(のべおか)に到着した。電車を降りる。
朝食は駅弁を食べることにする。幕の内弁当っぽい駅弁である。あとで食べることにして買っておく。
改札にきっぷを渡した。今日はJRに乗るのはあと1本だけ、他は私鉄とバスばかりの予定である。
はじめての宮崎県だ。これで行っていない県はあと3つ、熊本と鹿児島と沖縄だけになった。
そしてあと数時間もすれば熊本入りだ。さあ、もっともっとがんばろう。ぼくは改札を出て高千穂鉄道の乗り場をさがし始めた。
延岡駅から外に出ると、けっこう都会である。
なぜか、白髪のいかにも偉そうなおじさんと、コンパニオン風の女性が机の前で何かのイベントの準備をしているようだ。何があるか知らないけど、連休なのだからなにかイベントがあるのだろう。
はじめて1994年に三陸鉄道に乗ってから、もうすっかり第三セクターにも慣れてしまった。
半分以上の第三セクターと同様に、延岡も高千穂鉄道の駅はJRの駅舎のかたすみの小屋が入り口である。
小屋に入ってきっぷを買う。今日はずっと1日、鉄道の日記念・JR全線乗り放題きっぷは使わない旅行をしている。
まだ発車まで時間があるので駅弁を食べることにする。列車はゆれるのでなるべく待合室で弁当は食べることにしているのだ。食べ終わると改札をくぐった。
ディーゼル車にはすでにけっこうお客がいる。地元民らしい人もいるらしいが、観光客がかなりいるようだ。今日は3連休のなかびである。
ディーゼル車は発車した。どこにでもよくある山あいの風景だ。ずっと誰も降りない。今日は地元の客の方が少ないのだろう。とうとう日之影温泉駅まで来てしまった。やっぱり降りる人は少ない。
途中、橋のまんなかで徐行した。とても川の水面からの高さが高い橋なので、景色をごらんくださいということらしい。事実、観光客たちは喜んでいるようだ。
高千穂駅が近づいた。結局ほとんどのお客は高千穂まで行くらしい。ずっと混雑しているローカル線というのは、実はそれほど珍しくもない。
話に聞いたところによると、高千穂駅前にはタクシーが横付けしていて、お客に「観光されるんでしょ?わざわざ高千穂まで来て、観光しないなんてもったいないですよ」などと言いながら誘ってくるらしい。今回はそんな時間はない。
これからバスと南阿蘇鉄道経由で熊本まで行き、夜までに市電と熊本電鉄に全部乗って、大阪のあべのまでバスに乗らなければならないのだ。もしタクシーの運転手がいたら、速攻で逃げる必要がある。
ディーゼル車は終点、高千穂駅に到着した。きっぷを渡して改札を出る。出口にタクシーが横付けしている。ぼくはタクシーまでの通路の途中から草ぼうぼうの場所に躍り出し、道のない所を走って逃げ出した。
いろいろ歩いてなんとか大通りに出た。坂道がある。下ってみた。
あったあった。バスターミナルだ。ちょっと待つと熊本行きバスが出て、南阿蘇鉄道の終点、高森駅の近くを通るらしい。停留所の案内図を見ると、なんとか歩いて高森駅に行ける距離のようだ。
熊本行きのバスは、なんと熊本空港を寄るらしい。ということは、高千穂に行くには宮崎空港よりも熊本空港の方が便利ということになる。
以前「ウッチャンナンチャンのオールナイトニッポン」を聞いた時に、内村さんの実家の熊本県の人吉に行くのに鹿児島空港から人吉に行く、というのを聞いたことがある。
確かに鹿児島空港は鹿児島県でも多少北の方にあるので、熊本の南の方の人吉ならば鹿児島空港の方が便利、ということなのだろう。
高千穂も同じようなものかもしれない。
そうこうするうちに延岡からバスがやってきた。10人ほどお客がいる。まあこんなものだろう。どんな景色が待っているのかわくわくしながらバスに乗った。
そしてバスは高森の停留所に向けて走り出し始めた。
高千穂鉄道の高千穂駅から10分ほどくだりの坂道を歩いてバスターミナルにやってきた。そこで高森役場前までのバス乗車券を買い、バスを待つ。
ようやく熊本行きのバスがやってきた。10人も乗っていないバスであった。高千穂から乗る人もそんなに多くなく、快適に出発である。
バスが通るくらいだから道は整備されている。舗装された道を進んでいく。山が左右に見える。
と、バスが停止した。そこには電光掲示板みたいに数字が表示されていて、その数字が少なくなっているようだった。
どうやらあれは工事のため片側交互通行になっている場所で、待ち時間を示す案内で、ゼロになると動けるようだ。事実反対方向に向かう車が次々と通っていった。
ぼくはこんなものを見るのは1997年のこの日が初めてであった。あとで本で読んだところによると、この手のものは西日本が発祥で、せっかちな人向けに待ち時間を表示するようにしたらしい。
すごいものがあるなあと思いながら通り過ぎると、2回、3回とこの案内にぶちあたり、やはり数分待たされた。この季節はこういう工事をする季節なのかもしれない。確かに真夏の観光シーズンにするべき工事ではないのだろう。
工事区間もなくなり、バスは外輪山を越えてカルデラに入ってきたようだ。ながめのいい阿蘇山である。
しばらくして家並みが増えてきて、目的地の高森役場前に着いた。バスを降りる。降りたのは2〜3人だった。
ぼくは南阿蘇鉄道の高森駅らしい方向に向けて歩き始めた。方向を間違えなければ接続のいいディーゼル車があるはずだ。もっとも今日は乗り遅れてもたいしたことはないのだが。
高千穂から乗って来たバスは、無事高森の停留所に到着した。
確か高千穂のバスターミナルにあった地図ではこの道だったなあ、という方向に歩き出した。
案ずることもなく、それほど進まないうちに高森の駅が見えてきた。
そこにはログハウス風の建物がいくつかあり、もし時間があったらゆっくりながめていたい所だった。しかし今は時間がない。発車寸前のディーゼルカーに乗り込んだ。
もちろん3連休のなかびなので空席はない。
にぎやかな車内、各駅に停車する。どの駅もけっこうお客がいて、乗り降りも多い。
南阿蘇鉄道のレールは、すすきの野原を通り過ぎていく。
やがて「南阿蘇水の生まれる里白水高原」だ。もちろんはくすいこうげんと省略してアナウンスされるが、駅のホームにある駅の名標は長い名前だ。また発車する。
つづいて阿蘇下田ふれあい温泉駅に着いた。火山の上なのだから、温泉くらいあっても良さそうな場所である。ぼくは温泉を敬遠しているので、そのまま通過する。
景色は相変わらずすすきの野原だ。そして右も左も山、山、山だ。山の上なのだから当然だ。
もうすぐ終点です、というアナウンスが流れ、ディーゼル車が減速していく。
そして終着、立野駅に到着だ。降りるお客のうしろに並んで待つ。
あれ?他の人は運賃箱の所を何もせずに通り過ぎていく。
どうやらぼく以外の人は団体の人のようでした。なるほど、だから混雑していたのか、ん?それじゃいつもはもっと閑散としているのかな?
今になって思うとそんなことも考えてみるのだが、当時のぼくはそんなことを思いつきもせず、まだ見ぬ熊本市内の電車に期待で胸をふくらませていた。
運賃箱に南阿蘇鉄道の運賃を入れてディーゼル車を降りた。
立野で水前寺までのきっぷを買って熊本方面のホームに行った。
やってきたディーゼル車はピカピカの真っ赤な車両だった。さあ乗ろう。
ごとごとディーゼル車は進んでいく。
左に道路が見える。車で渋滞している。
こういう渋滞を見ている時が、やっぱり列車の旅はいいなあ、と感じる瞬間である。
そうこうするうちにディーゼル車は市街地へと進んでいった。
今日は市電の水前寺駅から熊本入りする予定である。だから熊本まで行かずに水前寺で降りてしまうのだ。
そして多少ホームの広い水前寺駅で降りた。昔は特急有明がディーゼル機関車で牽引されてここまで来ていたという話だが、1997年現在はその運用は休止していた。
しかし2000年現在はこの区間が電化され、水前寺への有明の乗り入れが復活しているので、おそらくここで見た広いホームは有効に活用されているに違いないと思っている。
(しかしよくよく時刻表を見たら、水前寺始発終着の電車はごくわずかであり、ほとんどの有明は水前寺より阿蘇寄りの駅が発着になってしまっていた。)
ディーゼル車は水前寺に到着した。ぼくは降りて改札にきっぷを渡し、市電の停留所を探し始めた。
豊肥本線を水前寺で降りて市電をさがす。ありゃ。ずっと西の方だ。どうやら新水前寺の方が近いらしい。まあいいかと歩きだすと、いかにもうまそうなラーメン屋が見えた。よし、ここでラーメンを食べよう。
順調に熊本市内まで来ることができたので余裕をもって時間を使っている。まだちょっとおなかがすいているが、とりあえず店を出て、また西に歩いた。
そして市電のレールが見えた。新水前寺駅も見えている。市電の安全地帯も見つけた。
まずは健軍町(けんぐんちょう)行きに乗ることにする。市電がやってきた。
けっこう混雑している。貴重な市民の足になっているようだ。水前寺公園という停留所を過ぎていく。
降りようかとも思ったがやめておく。やがてお客も少なくなり座れたが、じきに市電は終点、健軍町に到着した。まずは他のお客が降りるのを待つ。
全員降りきったところで運転手さんに「1日乗車券ください」と言ってみた。
きっぷを渡され、「このまま降りちゃっていいよ。降りてから日付をけずってね」と言われた。
降りてから見てみると、確かに日付が10円玉などでこすってけずる方式になっていて、乗車する日をけずれば良い方式だ。それほど珍しくはないが、「年」の部分もあり、2年先まで持っておいて使っても良いらしい。なかなかしゃれている。
熊本の市営バスにも乗れるらしい。どこをどう通るのか知らないが、まああまり必要なさそうだ。
深呼吸して日付をけずって、この市電が上熊本行きであることを確認してまた市電に乗った。そして発車する。
ふたたび水前寺公園、新水前寺に進み、だんだんお客が増えてくる。
市電は市街地を進んでいく。右折する乗用車や左折する乗用車がどんどん軌道内に入ってくる。まあ、きのう乗った土佐電鉄のように、軌道の他は乗用車が1台しか通れるスペースしかなく、すれちがうために必ず軌道に入らなければならないのに比べるとかなりましな方であるが。
目の前に黄色い矢印のついた信号が見える。免許を取る時に使った本に、黄色い矢印は市電専用と書いてあったことを思い出した。
あのころは市電なんてどこにあるのだろう、と思っていたが、今目の前に実際に見るとあの本は正しいんだなあ、と改めて思う。
ずんずん進んで辛島町に着いた。
辛島町でかなりのお客が降りてしまい、さらに市電は進んでいく。
そして市電は上熊本に着いた。JRの駅も見える。
ここで熊本電鉄に乗り換えることにする。
上熊本は辛島町と比べると多少人通りが少ない。熊本では、JRの駅前だからと言って、必ずしも人通りが多いというわけではなさそうだ。
御代志(みよし)まできっぷを買って改札を入り、熊本電鉄のけっこう新しい電車に乗る。
あまりお客がいない。市街地の中を走る路線にしてはずいぶんと利用されていないものだ。
つらいところである。
こうして北熊本まで来て乗り換えだ。
熊本電鉄は、乗り換え駅だからと言って豪華な設備があるというわけではない。
多少ホームが多い程度である。ホームを移動して御代志行きを待った。
北熊本で御代志(みよし)行きを待った。やってきた電車には、なぜか電動車椅子の人が2人も乗っていた。そのほかに自転車も乗っている。どうやら自転車乗車OKというルールらしい。おそらく朝晩のラッシュ時はだめなのだろう。
ひょっとしたら足の不自由な人がまとまってこの路線の沿線に住んでいるのかもしれないな、と思う。
多少まちなみが閑散としたころ御代志に到着した。ローソンが駅前にあるのでやきそばを買って食べた。そして今度は御代志から藤崎宮前(ふじさきぐうまえ)に向かう。
まちなみが市街地になっていくが、商店街というよりも、どちらかといえば住宅地の間をぬって進むようだ。北熊本を過ぎるとそれがいっそうはっきりする。
住宅地の間をずんずん進んだ後、電車は藤崎宮前に到着した。
改札をぬけて暗い通路をぬけて外に出てみて振り返ると、工事中の大きなビルになっていて、そこの一角に熊本電鉄の駅の入り口があるようだ。このビルは熊本電鉄の持ち物で、ここにふみとどまってお客を呼び込んで商売をしていこう、というつもりなんじゃないかと考えた。
さて、残った熊本市内の路線は市電の辛島町〜田崎橋だ。辛島町は福岡で言えば天神みたいな場所だから、おそらくいろいろなところのバスが辛島町に向けて集まるんじゃないかと考えた。ぼくが今持っている市電の1日乗車券は市営バスにも乗れる。だからちょっと歩いてどこかバス停を見つけて乗れば辛島町の近くに行けるんじゃないか、そう思って藤崎宮前から歩いてみた。
バス停があった。「交通ターミナル」行きのバスが多い。確か交通ターミナルは辛島町の停留所の近くだったような気がするのでこのバスに乗ることにした。いろいろなバス会社が乗り入れていて、市営バスもあるようだ。
「電鉄」「産交」と書かれたバスがあわせて10台以上どんどん通り過ぎていく。そしてようやく「市営」のバスがやってきた。まあこういうものなのだろう。
熊本市電1日乗車券を見せて交通ターミナル行きの市営バスに乗った。
熊本電鉄・藤崎宮前の近くから乗ったバスは交通ターミナルの建物に入り、降車場に到着した。
けっこうな規模のバスターミナルだ。バスターミナルだけではなくショッピングもできる施設になっていて、あとで見ることになる熊本駅の駅構内にある施設よりはるかに豪華であった。
さて、これからするべきことがある。今夜乗る大阪のあべのに行く夜行バスの乗り場の確認だ。まず地下に入る。
適当な所で上に上がったり、あちこち歩いてやっと夜行バス乗り場を見つけた。
うん、まちがいない。これで安心だ。
ひとまずぼくは残った辛島町〜田崎橋の路線に乗るため交通ターミナルを出た。
そしてまわりをぐるっと歩いてなんとか市電のレールを見つけ、安全地帯を見つけた。
そして「熊本駅方面」という文字を確認して市電を待った。
やってきた。有明もつばめも停車するJRの駅に行く市電であるいうのに、それほど混雑しているわけでもない。さあ、乗ろう。
市街地ではあるが、けっこう細い道を通っていく。少なくとも新水前寺と辛島町の間の道路より細い。どうやら熊本城のお堀のそばを通っているようだ。
(注:この時はそう考えたのですが、実はそばを通っているのはただの川で、熊本城は辛島町の北にあることがあとで地図を見てわかりました。失礼しました。)
思ったほどお客も増えず、市電は熊本駅前に到着した。
「この電車は熊本駅前が終点です。田崎橋までお乗りの方は、前に停車している電車にお乗り換えください」とアナウンスされる。どうも、混雑して電車が遅れ気味の時の通常の運行方法らしい。
しかたがないので1日乗車券を見せて降り、前の市電に乗り換える。乗り換えたのは数人で、それまで前の市電に乗っていた人と合わせても数人しかお客はいない。田崎橋まではほんの数駅しかないからだ。
すぐに市電は田崎橋に到着する。これで熊本の市電は完乗だ。
さて、まだ日が暮れるまで時間がある。とりあえず田崎橋からあてもなく散歩でもしてみようと思った。
市電は鹿児島本線の東側にしか通っていないので、踏切か陸橋があったら鹿児島本線の西側に行ってみて、どんなところか確認してみようと思ってみた。
踏切でも陸橋でもなく、線路の下を道路が通っていた。くぐって進む。
あとはずんずん歩く。大通りを歩いていたが、なんとなく細い道に入りたくなってきた。
それからが大変だった。
道に迷ってしまった。
もしまた鹿児島本線のレールが見えたらくぐろうかと思ったのだが、道が全く見つからない。
住宅地を進み、いろいろな道を進んだが、結局もとの道に戻ろうと思い、1時間か2時間ほど歩いたところで、またJRの線路をくぐる所を通り、とぼとぼと田崎橋を通過した。
なんとか熊本駅に到着し、どこか適当な食堂をさがす。今日は駅弁、ラーメン、やきそばと食べてきたので、さすがに定食をたのんで食べた。これであしたの朝、いやお昼までもつだろう。
さあ、ふたたび市電だ。市電は完乗しているが、今回の宿代わりとなる大阪なんば・あべの経由上本町行きの夜行バスは熊本駅前には寄らず、さきほど通った交通ターミナルを発車すると若干の停留所に寄るだけで大阪に行ってしまうので、ふたたび辛島町に向けて市電に乗り込んだ。
またお堀のような川のそばを進み、にぎやかな交通ターミナルが見えてきた。辛島町だ。今日の電車の移動はここでおしまいだ。市電を降りた。
市電1日乗車券を破いてごみ箱に捨てる。ぼくは使い切ったきっぷはいつもこうすることにしているのだ。
ふたたび交通ターミナルに入り、数時間前に確認しておいた夜行バス乗り場に行ってバスを待つ。
そして今回もバスは無事にやってきた。
さすがにそれほど需要もないのだろう、1台だけの運行である。それでもやっぱり満席である。夜行バスが満席でなかったことなど一度もない。
もう夜行バスに乗るのも何回目になるだろうかと思いながら、ぼくはバスに乗り込んだ。