目が覚めた。雨はもうやんでいるようだ。ここは熊本県山鹿市にある山鹿ホテルである。
朝食には早いのでもう一度風呂に行こう。あまり人はいなかった。今回の旅は温泉づくしだった。
部屋に戻ると朝食だ。夕食の時は給仕の人は引っ込んでいたが、朝食は給仕の人が部屋にいた状態で食べることになる。朝食にしては豪華である。
そばにわさびが乗っている。どけて食べる。それからめんたいこがある。給仕の人の目の前で心苦しいがいたしかたない。からいものが嫌いなぼくは、わさびとめんたいこを残し、ほかのものはすべて食べた。
そして瀬高行きのバスの時刻に合わせてチェックアウトする。
本当ならJRバスのターミナルに行こうかと思ったが、温泉プラザの停留所からは遠そうだったのでやっぱり温泉プラザから乗ることにする。
バスがやってきた。バスの側面に「OMNI BUS」と書いてあるバスである。お客は10人程度である。
バスは進む。人家の多かった熊本〜山鹿のルートに比べるとずっと人家が少なく、森のそばのひとけのない道を進んでいく。
途中、なんだか温泉っぽい施設っぽい所に立ち寄っていく。バスというものは客が寄りそうな所に寄っていくものである。
お客は温泉っぽい施設で乗り降りし、瀬高へ進んでいく。
あまり市街地という雰囲気でもない場所に瀬高駅はあった。ここで終点である。
バスを降りた。今日はこれからいろいろな電車・ディーゼル車に乗る。がんばろう。
山鹿(やまが)温泉で泊まったホテルのそばの温泉プラザという停留所から乗ってきたJR九州バスは、無事瀬高(せたか)駅に到着した。
駅の売店ではオレンジカードでなく、なぜかテレホンカードが売っていた。九州の列車の書いてあるテレホンカードだ。
まずは買っておこう。
もうすぐ朝10時である。この時間帯はあまりお客がいないが、この区間はちゃんと1時間に1本電車が走っている。
「瀬高→二日市」の周遊乗車券を見せてホームに入り、電車を待って乗る。
小高い山や森が続く景色を過ぎて市街地の景色になり、久留米に着く。
再び発車、田んぼばかりの景色になり、また市街地に来て二日市だ。電車を降り、階段を昇って降りて改札に向かう。「瀬高→二日市」の周遊乗車券を渡して改札を出る。
これでJRの周遊乗車券は終わりだ。残った「二日市(バス)太宰府」の周遊バス乗車券と「太宰府→西鉄福岡」の周遊乗車券を見て、もうすぐすべてが終わってしまうんだなあ、としみじみ思った。
さて、ここからはすぐにバスには乗らず、このへんで指定地接続線になっていない私鉄である「甘木(あまぎ)鉄道」と「西鉄甘木(あまぎ)線」に乗ることにした。西鉄大牟田本線も西鉄二日市〜西鉄久留米間は指定地接続線にも経由社線にもなっていないためここで乗っておきたい。
そのためには西鉄二日市→西鉄久留米→西鉄甘木(歩)甘木→基山(きやま)→二日市と進めばよさそうである。
しかしここはJRの二日市駅であるので、西鉄二日市まで行く必要がある。
ぼくは迷わず歩くことにした。地図では北東に進めは着くようなので、すぐに行けるような気がしたからである。
いずれここに戻ってきて太宰府行きのバスに乗る予定なので、まずはバスの時刻を控えておく。
こうすることにより、たとえば基山で電車を1本遅らせて次の電車に乗っても乗るバスは同じ、ということになると時間を有効に使えるからだ。もっとも、バスは電車と同じくらいの間隔で出ているため、どの電車で着いてもそれほど待たずにバスに乗れそうである。
そして西鉄の二日市駅へと歩き出す。
まずは適当な方向に歩いたが、ななめの道があまりにも多く、自分が今どっちの方向に歩いているのかわからなくなってしまった。雲が出ていて太陽の位置もわからないのでなおさらわからない。
考えてみた。ここはJRと西鉄に挟まれた場所だから、どちらかに進めば線路に出られる。線路を走る電車を見ればJRの電車か西鉄の電車かわかるだろう、それがわかれば方向が北なのか南なのかわかると考えた。
大通りをはずれて横道に入り、進んでみた。
右の方から踏切の音が聞こえてきた。二日市近辺ではJRが西側、西鉄が東側にある。だから右にある電車が西鉄なら北に、JRなら南に進んでいることになる。JRの二日市から西鉄二日市へは北の方向なので、もし南に向かって歩いているのなら、逆に進まなければならない。さあ、はたして西鉄か?それともJRか!
結果…ガーン!JRだあ!
自分が南に進んでいることがわかった。Uターンして元の方向に戻ることにした。
歩く。歩く。さっき曲がった交差点を越えてまた歩く。
どのあたりで曲がると西鉄二日市駅に出られるのかわからないので、とりあえず適当な所で西鉄の方向に進んでみる。
細い道が続いたが、なんとか駅前通りらしい雰囲気の道になってきた。さらに歩く。
ようやく西鉄二日市駅に到着した。さあ、まずはきっぷを買おう。
JR二日市駅から歩いて歩いて、なんとか西鉄二日市駅に到着した。
さてここからは西鉄久留米経由で西鉄甘木に行けばいいので、きっぷを買おうと自動券売機に近づいた。
あれ?値段が2つ書いてある。
正式な乗り換え駅である宮の陣駅で乗り換える運賃と、宮の陣には特急は停車しないため、特急で西鉄久留米まで行って西鉄久留米で乗り換える際の運賃が載っているのだ。
とりあえずこの時点では、あとでJR久留米から西鉄久留米までバスに乗って、西鉄で大牟田に行こうなどと考えていたため、西鉄久留米まで行くことにした。
50円ほど高い西鉄甘木行きのきっぷを買って改札を通った。
やってきた西鉄久留米行きは急行であったので、宮の陣にも停車する。でもせっかくきっぷを買ったんだし、久留米まで行こうと考えた。
急行はロングシートである。
ぼくはロングシートが大好きである。座高が高いので、2列席に座ると首の後ろに座席が来ないため、疲れるのだ。
その点ロングシートは、首のうしろは窓なので安定するのだ。インターネットでいろいろな掲示板に書き込む時も、ことあるごとにロングシートが好きな人を探しているのだが、なかなか見つからない。
まあそんなわけで快適に急行は走っていく。それほど混雑もしていない。田園風景の中をさらに進む。
急行は宮の陣に停車、そして発車し、電車は西鉄久留米に近づいた。
そのまま高架に上がっていき、高架の西鉄久留米駅に到着した。屋根のある駅であり、久留米の中心街はどうやら西鉄久留米駅の方であるようだ。
西鉄久留米駅の階段を下りて、昇って西鉄甘木駅行きのホームに来た。西鉄福岡行きの列車の発車を何本かながめ、しばらく待っていると西鉄甘木行きがやってきた。あれ、何人か乗っている。
全国版の時刻表にもちゃんと、西鉄甘木線のページには花畑始発の時刻が載っている。ほとんどは西鉄久留米の用事がある人だろうとは思うけど。
電車に乗って西鉄甘木方面に進む。
宮の陣が近づいた。電車はガタゴトとポイントを渡って下りレールに移った後、さらに右に分岐し、宮の陣の西鉄久留米方面のホームとだいたい角度にして60度の向きに設けられた西鉄甘木線のホームに入っていった。
この形のホームはJRでも私鉄でもごく一部にしか存在しない。ぼくの知っている限りだと、JR鶴見線の浅野駅、富山地方鉄道の寺田駅、阪急電鉄の石橋駅である。
ホームを作ったり、お客が移動したりするのがいろいろとめんどうなのが理由なんじゃないかと想像する。
さて、電車はあまり混雑もせずに宮の陣駅を出ていった。筑後平野の田園風景が広がっている。
とある駅に到着する寸前に、車内に小柳ルミ子の「わたしの城下町」のオルゴール風のメロディが流れてきた。
そういえば、去年の5月に乗った西鉄の宮地岳(みやじだけ)線でもチューリップの「心の旅」のオルゴール風のメロディが流れていたなあ、と思い出した。
なにはともあれ珍しいことをやるのは宣伝になっていいかもしれないなあ、と思っている。
そうこうするうちに西鉄甘木駅が近づき、到着となった。そこそこお客が降りた。
西鉄甘木駅は小さなホームがあるだけの駅であった。
甘木はかなり大きな町のようであるが、この駅はそんな町の中心からはずれているようで、駅の小さな出口から出てみても、人通りが少なそうなところであった。
注意:九州の読者より、宮の陣は以前は別の場所に駅があり、甘木方面の電車の出るホームも福岡方面の電車の出るホームと平行のホームから出ていたのだが、その後そばを流れる筑後川の堤防を積み上げる関係でレールが移動し、その関係で浅野、寺田、石橋駅のようになったというアドバイスがありました。ご厚意厚く御礼いたします。
西鉄甘木駅からとぼとぼと散歩してみる。ダイエーがある。さすが福岡だ。
そしてほどなく、甘木鉄道の甘木駅が見つかった。西鉄の駅よりは若干大きい駅舎である。
発車まで多少時間があるので駅を良く見てみる。するとこういう説明が見つかった。
「期限が切れた定期券は駅に返却してください。期限が切れた定期券が不正に使用された場合、購入者に責任を取っていただきます」
有無を言わさぬ、そして理にかなったルールだなあ、と感心した。
さて、基山まできっぷを買い、ホームに入ってディーゼル車に乗った。けっこうお客がいる。もしかしたら西鉄よりお客が多いかもしれない。
そして発車した。向こうの方に西鉄甘木線のレールが見える。そして離れて見えなくなっていく。
相変わらず、田園風景が続いている。
よくよくこのディーゼル車の運転席を見てみると、けっこう変わっている。運転手が真ん中に座っているのだ。
JRなどのたいていのディーゼル車は、連結する際の隣の車両との通路が真ん中にあって運転席はその扉を避けるように右か左の端にあるものである。それなのにここでは連結した時に隣の車両に行くことなど最初から考えておらず、運転手の都合だけ考えて車両が作られている。
たまたま今回は1両編成だが、2両以上になるときはどんなふうになるのか、気になった。
そうこうするうちに小郡が近づいた。ここはおそらく秋葉原みたいに線路が立体交差しているんだろうなあと想像した。
スピードが落ちてきて、高架に上がっていった。どうやら甘木鉄道の方が高い所にあるようだ。さて西鉄の線路はどこにあるのだろう。下にあるあれかな?では西鉄の小郡の駅は?う〜ん見あたらない。
西鉄の小郡駅がどこにあるのか見つからないまま、ディーゼル車は発車した。
さらにディーゼル車は西に進んだが、だんだん右にカーブしていった。さすがに元国鉄線だけあって、基山の甘木鉄道のホームは鹿児島本線に沿って設置されているのだろう。スピードが落ちてきた。
そして基山に到着、鹿児島本線に乗り換えだ。
隣に鹿児島本線のレールが見える。もしかしたら改札を出なくても乗り換えできるのかなあ、とも考えたが、階段を昇ると改札があって、きっぷが回収された。どうやら鹿児島本線の改札はこの先のようだ。
甘木鉄道の基山(きやま)駅を出て、階段を昇って降りてJRの改札に出た。
オレンジカードでも買ってみようと思い、駅の人に話すと、JR九州の列車が書いてあるオレンジカードが買えた。さっそく二日市まできっぷを買った。
ホームでは、高校生の男女が仲良く語り合っている。今日はバレンタインデーである。
そういえば去年もバレンタインデーには旅行していたっけなあ、と思い出す。確か静岡の御前崎(おまえざき)だった(実は2/15でした)。
そして今日2度目の鹿児島本線の電車がやってきた。今度もピッカピカの電車だ。
あまり混雑していない電車は基山を出て、再び二日市にやってきた。ぐるっと一周したことになる。
これから乗る太宰府行きのバスの発車時刻はメモとして控えておいたのでわかっている。時刻に合わせて太宰府行きのバスに乗った。今日の旅行はバスが多い。
JR二日市を出発した太宰府行きバスは、市街地をはずれて進んでいく。お客は15人ほどである。
そのうち山の中に入っていく。西鉄だと電車で行けるはずなのに、けっこうおもしろい所を通るものだ。
山に入る前にかなり降りてしまい、お客は10人以下になっていた。それほどJRから太宰府に行く人もいないようである。
そのうち山を抜け、平野に戻ると太宰府着である。
しかしなんだかおかしい。周遊船車券の二日市〜太宰府の運賃は240円なので、割引前の運賃は270円でなければならないはずなのに、バスの運賃の表示は370円なのである。
急ぐ旅ではないので他のお客が降りてからバスの運転手に券を見せたが、運転手の話だとなんでも昔JR二日市と太宰府の間には西鉄二日市経由のバスが走っていて、その運賃が270円だということである。しかしそのバスが廃止されてしまい、今は西鉄二日市を経由しない今日乗ったバスしか走っておらず、遠回りなので370円だということである。
結局券との差額の130円を払うことになった。バスを降りて太宰府天満宮におまいりしよう。
JR二日市駅から乗ってきたバスを降りると、そこは観光地であった。
めざす太宰府天満宮は、駅から続く参道を進んだ先にあるらしいので歩いてみた。
歩いているうちに食堂を見つけた。もう午後2時近く、すっかり腹が減ってしまったので、ここで食事にする。
ここはやっぱり焼肉定食だろう。今朝も旅館の豪華な食事をとったにもかかわらず、食堂に寄って焼肉定食を食べた。観光地だからと言ってうまい食事にありつけるとは限らないが、ここのめしはうまかった。
食堂を出てさらに進み、太宰府天満宮に到着した。そりゃ土曜日だし、冬でもお客がたくさんいる。
露店の中にやきそばを売っている所を探してみた。やっぱりないなあ。去年の田川後藤寺のお祭りでもやきそばを売っていなかったし、九州では観光地でやきそばは売らないのだろう、とそう思った。
まあいいや。太宰府の中に入ってみよう。
なんと修学旅行生がいる。確かに長崎でも修学旅行生がいたから、福岡にいてもおかしくない。
女子高生らしく、女の子ばかりかたまっている。こんなにいい気分になったのはひさしぶりだ。さいせんを500円くらいふんぱつしようかなあ………あれ。
えーと、えーと、世の中の女子高生には美人ばかり存在するわけではないのである。
どこかのコマーシャルで、「このフィルムには、美しい人はより美しく、そうでない人は、それなりに写ります」というコマーシャルがあったが、まあそういうことで、太宰府にはいろいろな女の子が集まってくるのである。
これ以上書くとおそろしいのでやめておく。とりあえずこの日がバレンタインデーであることを書いておく。バレンタインデーに太宰府に行った人で、顔に自信のある人はもしかしたら自分のことを言っているのかもしれないと思ってください。
そんなわけでさいせんは50円だけ入れて、今日羽田行きが無事に飛ぶことを祈った。
やっぱり観光地は安心する。なにしろみんなよそ者なのだ。
自分のまわりの人がみんな地元民だと、なんだか仲間はずれのような気がする。でもみんなよそ者なら同じよそ者だから安心なのである。
特に神社やお寺などだと安心できる。なぜだかわからないが、おそらく自分が普段暮らしている場所とかけ離れた場所だからかもしれない。
この太宰府天満宮も、めったに見ることのない建物がたくさん建っていて、ここは普段暮らしている場所とは別の世界、ここにいる人はみんな旅行者仲間、とそう感じるから安心できるのかもしれない。
普段暮らしている場所では、今会っている人にあしたも会わなければならない。それはすなわちきのう自分がしたことについて注意されるかもしれないということだ。とても安心できないのだ。
旅行先では警察のお世話にでもならない限り、きのうしたことはすべて忘れることができる。なんとすばらしいことなのだろう。そんなわけでぼくは旅行しているのだ。
とりあえず太宰府は見てまわったので、参道を駅に向かって進んだ。
さて駅に着いて、最後に残った周遊乗車券「太宰府→西鉄福岡」を取り出した。
改札に行き、スタンプを押してもらった。
なんか観光地って感じで、どことなく中途半端な作りの駅である。でもまあ行き止まり駅であるからには、ホームが2本あって交互に発車しているようだ。今度の電車は西鉄二日市行きである。
もちろん今日西鉄二日市→西鉄久留米、西鉄久留米→西鉄甘木と乗ってきた電車と同じでオールロングシートである。
ここは観光地とは言え、福岡の通勤圏内なのだ。だからロングシートは当然である。
まだまだ帰りの観光客はそんなにおらず(と言うより車の客の方が多いのかもしれない)、電車はあまり混雑していない。
そして発車だ。まだまだ帰りに予約した日本エアシステムの航空機までは時間があるので、それほど急ぐ必要もない。
JR二日市駅から乗ってきたバスとは違い、この電車は平地だけを走る。確かにバスはかなり迂回しているようだ。
電車は家並みの続く市街地を走り抜け、今日2度目の西鉄二日市に到着した。さあ、西鉄福岡行きに乗り換えだ。
西鉄二日市駅のホームで西鉄福岡行きを待つ。今度の電車は特急らしい。
電車がやってきた。
乗ってみた。JR九州の普通列車と同じような2人がけシートだ。西鉄もさすがに特急だけはロングシートというわけにはいかなかったらしい。
あまりお客はいない。もう夕方が近く、福岡の中心に向かう人が少ないからかもしれない。
この特急は西鉄二日市を出ると、薬院(やくいん)と終点西鉄福岡にしか停まらない。一般周遊券の最期を飾るにふさわしい列車となった。
電車は福岡の町中を進んでいくが、やがて都市部に入っていき、高いビルが目立つようになってきた。
そして薬院に停車する。
さあ、最後だ。電車は高架に上がっていき、そのままビルの中の高架ホームへと吸い込まれていった。
そして到着。西鉄福岡だ。さあ、降りよう。
ホームを進んで改札へと進む。ついに、ついに一般周遊券の最期がやってきた。
最後に残った「太宰府→西鉄福岡」の周遊乗車券を、今回に限り単なる添え物となってしまった周遊券の表紙の上に乗せ、表紙ごと改札員に渡した。
これで今までに7回使った一般周遊券のすべてが、すべてが終わってしまったのである。
悲しんでばかりもいられない。せっかく天神に来たのだから、まずはすぐそばのデパートでめんたいこを買い、実家に宅配してもらった。もう何回目になるのかなあ。なお、ぼくはめんたいこに限らず、からしのきいているものが大嫌いなので食べることはない。
無事宅配手続きも済んだので、「親不孝通り」にでも行ってみようと思い、デパートを後にした。
めんたいこを買ったデパートを出て歩く。さて親不孝通りってどこだろう。
「中洲」というのが天神の東の方にあることはわかっているけれど、親不孝通りがどこにあるかわからないので、とりあえず東に進んだ。
川に突き当たった。そこには金属製のオブジェがあった。オブジェのそばにあった案内を見ると、「風のプリズム」「1983年」と書いてあった。
風のプリズムと言ったら、広末涼子ちゃんの歌のことかなあと思ったが、1983年じゃ、歌とは関係ないだろう。
まあいいかと思い、さらに東に進んだ。
地下鉄の中洲川端の駅のあたりまで進むと、南に通じる大通りがあった。若者の通りのような気がする。ここが親不孝通りかはわからないが、こんなところで毎日遊んでばかりいたら、確かに親不孝だろう。
南に曲がってしばらく歩くと、右側にローソンがあった。しばらく進むと、これまた左側にローソンがあった。
違う系列のコンビニがすぐ近くにあることはけっこう多いが、こうも至近距離に全く同じコンビニがあるというのは初めてだ。どんな事情があるのか知らないが、これでやっていけるのかとても心配に思えた。
でももしかしたら、混雑する時はどちらのローソンも混雑するのかもしれない、それくらい中洲大通りは人通りの多い所なのかもしれないなあ、と考える。
左側のほうのローソンに近づいた。さて、クレジットカードを使おう。
バッグをおろしてファスナーを開けているとよくわからない男が近づいてきた。
「寄っていかないかい?」
ぼくはそんなことは無視してローソンで使えるクレジットカードを取り出す。
「あ、クレジットカード?ここの店でも使えるよ。」
「すいません、ローソンで使うんです」
さすがにその客引きはローソンの中まではやってこなかった。
今回の旅行は旅館に3泊もして、しかも夕食朝食付きであった。だから最後くらいはコンビニのめしでビシッとしめたいものである。やっぱり旅行のしめくくりはおにぎりバスケットがふさわしい。
おにぎりバスケットを買った。そして、さっき風のプリズムを見たものだから、なんとなく広末涼子ちゃんが宣伝しているものを買いたくなってしまい、ガルボを買った。飲み物もちょっと買って、これで羽田行きに乗る準備はできた。今度乗る日本エアシステム機はレインボーセブンではないから、それほど気負う必要はないが、まあけじめということでちゃんと食事は買っていくのである。とりあえずローソンを出た。
さっきの客引きがまた話しかけてきた。
「寄っていかないか?」
「急ぎますんで」
「どこ行くの?」
「空港!」
こんなところにいたらますます親不孝になってしまう。
まだ午後4時30分ごろで、博多の街はまだ日も暮れていないというのに、しつこい客引きがもういる。あとできいたところによると、風俗関係らしい。ただでさえ、こわくて1人では飲み屋に行けないのに、こんなところに入ったらいくら取られるかわかったもんじゃない。
さて目的はもうない。とりあえずもうちょっと歩こう。
南に歩くとグルメシティというダイエー系の店につきあたった。ローソンで買い物は済ませているのでもう買うものはない。左に曲がって、てくてく、てくてく、てくてく、歩く。
なんとか祇園の駅に到着した。
まだ予約した日本エアシステムの航空機の時刻には早いが、これ以上することもないし、はやいところ空港のいすに座って休もうかと思い、きっぷを買って空港行きに乗った。長かった4日間の旅行ももうすぐ終わるのだ。
今日も地下鉄はそれほど混雑していない。空港客もあまりいない。福岡空港駅で階段を昇り、自動改札を出て空港へ向かった。
なお、あとで親不孝通りとは天神駅の西にあるということを知り、次に天神に来た時には西に行ってちゃんと親不孝通りを歩こうと思いました。
福岡空港駅を出て空港に向かった。今日はもう天神の百貨店でめんたいこを買っているので空港で買う必要はない。
まだ時間は早いが、もう出発2時間前なので搭乗手続きは始まっているはずだと思い案内を見たが、なぜか乗る予定の羽田行きが見あたらない。
ぼくは窓口に行ってみた。
「XX時XX分発の羽田行きが案内に出ていないんですけど、どうなっているんですか?」
そうしたら意外な答が返ってきた。
係員「よろしかったら前の便が遅れているので、乗っていきませんか?」
もちろんOKし、さっそくX線検査を通って休むことなく機内に入った。荷物は預けられないがなんとかなるだろう。
さすがに窓側でない中央の席だったが、けっこうすいていて席に余裕がある。お客は出発が遅れているのでなんとなくみんな怒っているようだ。遅れたおかげで乗れたぼくはなんとなくばつが悪い。
そして離陸だ。景色が見えないとすることもない。まずは中洲のローソンで買ったおにぎりバスケットを食べる。
食べ終わるとぼーっとして過ごす。飲み物サービスは今日もウーロン茶にしよう。
今日は2月14日なのであるが、お客全員にチョコレートのサービスがあった。2月14日に航空機に乗ると得するんだなあと思った。
いいことも悪いこともあった旅行だったが、これで無事に終われそうだ。
さて着陸である。景色が見えないと着陸のとき準備ができなくてつらい。それでも着陸し、制動して無事に羽田に着いたようだ。
でもなんだか外の景色がおかしい。なんとなくターミナルから離れたところを進んでいるような気がする。
そして降りることになった。通路を通る。あれ?なんだかおかしなところだな?
階段をおりると出口があり、出口の外にはなぜか羽田空港が移転する前にターミナルと航空機を結んでいたバスが見えた。最後の方で降りたのでほとんどがらがらになったバスが進む。
どういうことなのか考えたが、羽田は混雑しているから、到着が遅れると到着場所に余裕がないため、ターミナルから離れた「離れ」の乗降場に連れていかれるんだろうとなあと思った。
バスはターミナルに着いた。航空機が直接ターミナルに着くときは荷物受け取り場所まで延々と歩かされるものだが、バス連絡のときはバスを降りるとすぐ荷物受け取り場所なので楽でいい。モノレール乗り場も近かった。
あしたは1日休みだし、あさってからまた仕事だな、きょうはラッキーにも少し早く帰れたから、途中でラーメン屋にでも寄っていこうと思った。きっぷを買い、モノレールの改札を通った。来月はまた青春18きっぷの旅行が待っている。がんばろう。